皆さんは、大好きな音楽を聴いたり歌ったりすることで気持ちが落ち着いたり、元気が出たりするという経験をしたことがありますか?
こうした音楽の効果を利用し、様々な症状の改善を目指すリハビリテーション法である、『音楽療法』が近年注目を集めています。
今回は、その音楽療法についてお伝えしていきたいと思います。
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音楽療法とは?
音楽療法とは、音楽を聴くこと、歌うこと、簡単な楽器(カスタネットやタンバリン、太鼓など)を鳴らすこと、また、歌に合わせて踊ることにより、脳を活性化させたり、気持ちを落ち着かせたり、時には痛みを和らげるリハビリテーション法のひとつです。
音楽を治療に応用するようになったのは、第二次世界大戦後のアメリカでした。
大量の傷病兵を出したアメリカの野戦病院で、兵士たちの好きな音楽を流し、傷病兵たちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)を癒したことがきっかけだと言われています。
また、音楽は彼らの心を癒しただけではなく、傷や病の治癒さえも早まらせたことから、その後アメリカを中心として、音楽による治療効果が立証されました。
日本では、2017年に105歳で亡くなられた、日野原重明 医師(※)などが音楽療法に関する研究を行い、また、2001年に日本音楽療法学会が設立されています。
ただ、音楽療法が盛んな諸外国ほど、音楽療法士の資格が確立しているわけではありません。
一部の限られた病院や福祉施設などで音楽療法を採用しているところもありますが、まだまだ数は少ないので、音楽療法士に音楽療法を受けられる場所は多くないのが現状です。
1995年3月に発生したオウム真理教による「地下鉄サリン事件」で、自身が院長を務める聖路加国際病院を開放する決断を下し、外来患者の診察などの通常業務をすべて停止。
当時83歳の日野原 医師は陣頭指揮を執り、被害者640名の治療に当たった。
音楽療法の対象者は?どのような効果があるの?
それでは、音楽療法とは、どのような人を対象に行われるのでしょうか?
また、どんな効果があるのでしょうか?
音楽療法の対象者とはどんな人?
音楽療法幅広い分野で活用されていますが、例をあげると次のようなものがあります。
- 認知症
- パーキンソン病
- 統合失調症
- がん患者の終末期のケア
- 発達障害
- 引きこもりなど
それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。
認知症
音楽療法には脳を活性化する効果や、気持ちを落ち着かせるリラクゼーション効果もあり、食欲が増したり、安眠できる、笑顔が増えるなどの効果も期待できます。そのため、認知症患者が利用する施設で音楽療法が実施されていることも多数あります。
音楽は「記憶の扉を開けるカギ」とも言われており、子どものときに歌った唱歌や若いころに流行した曲を選ぶと、昔のことを思い出して、さらに脳を活性化させる効果も期待できます。
パーキンソン病
パーキンソン病の治療に欠かせないのは、リハビリと薬です。
パーキンソン病を発病すると、少しずつ、自分で考えているよりも動きが鈍くなり、放置すると病気の症状以上に体が動かなくなってしまいます。
そのため、意識をして運動し、症状を悪化させないことが大切です。
歩ける人はウォーキングをしたり、音楽療法により、行進曲のようなリズムのはっきりした音楽を聴くだけでも効果があります。音楽と一緒にリズムを刻みながら、なるべく大きな動作で歩く訓練をするのも効果的です。
統合失調症
統合失調症では、幻覚・妄想や無気力などの症状が起こります。治療により症状が回復して社会復帰する人も多いですが、そのためにはリハビリが必要です。リハビリ中の患者に対する音楽療法の効果が研究チームによって次のように報告されています。
音楽は、多くの人にとって楽しい体験である。楽しみな時間が定期的に保証されているということは、特に長期の入院患者にとってはそれだけでも大切な事である。
ただ歌を歌うのが良いという訳ではなく、歌を歌うことによって、その中で、表現することができるようになったり、選択・決定する、ルールに従う、他の人の意見を尊重する、時間や場を共有する、会話を楽しむ、という事が可能になったり、好きな音楽で気分転換できたり、ストレスを発散するなど、いろいろな目標が可能になる
がん患者の終末期のケア
がん患者さんに専用の音楽療法があるわけではありませんが、内視鏡検査や抗がん剤の点滴を受けている時にBGMとして音楽を取り入れることで、患者さんの気持ちが楽になることにつながるとされています。
がんになっても、「なるべく今まで通りの自分でいたい」と思う方は少なくありません。「大丈夫、今まで通りの生活ができる」という反応を示す方が多くいます。
そのような時に、
それまでの生活の中で聴いていた音楽を取り入れて聴くことにより、音を介してそれまでの自分を取り戻すきっかけになるかもしれません。
また、家族や近しい人と一緒に、患者さんが好きだった曲を楽しむのもいい方法でしょう。
発達障害
発達障害のあるお子さんは、楽器の音やさわり心地、リズムに合わせて踊ることに興味をもつ事が多く、そのため療育の一環として音楽療法を取り入れることはお子さんにとって良い刺激となるかもしれません。ソーシャルスキル(人が社会で生きていくうえで必要な事)、例えば、ルールを守る、周りの人にあいさつをする、他の人の気持ちを考えながら会話や行動をする、などは通常、人と出会い、関わり合っていく中で無意識に身につけていくことが多いのですが、発達障害のあるお子さんの場合、それらをスムーズに獲得する事が難しい場合もあります。
音楽療法を通し、音楽療法士とのやりとり、またその場で一緒に音楽療法を受けているお子さんとの関わりの中で、他の人との関わり方や協調する必要性などを身につけていけるような環境をつくり、ソーシャルスキルの獲得を促します。
引きこもり
まず、厚生労働省は引きこもりを次のように定義しています。
仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態 ~厚生労働省
現在、日本国内の引きこもりの数は、70万人を超えると言われています。
これは大きな社会問題です。引きこもりで苦しんでいる人は、あなたの周りにもいるかもしれません。
引きこもりの人たちは、人間関係をつくるのが難しいのが特徴です。
彼らの心のケアに音楽療法が、とても効果的です。
なぜなら、音楽には人と人をつなぐ力があるからです。言葉はなくても、音楽を使って自分の気持ちを伝えることができます。
また、引きこもりのお子さんがいるご家族には、かなりのストレスがかかっている場合があります。音楽療法によって、ご家族の精神的サポートをすることも可能です。
音楽を聴いたり、歌を歌ったりすることで脳の血流量が増し、それによって脳が活性化し、認知症の下記のような症状への改善が期待されます。
- 行動面では→徘徊、暴力的言動、食行動の異常、睡眠障害、協調性など
- 心理面では→不安、興奮、うつ症状、無気力、妄想、幻覚など
また、幼少期や青年時代にご本人が親しんだ思い出の音楽を聴くことで、その当時を思い出し(回想)、記憶力が改善された事例も報告されています。
さらに、歌を歌うことで発声や発語、嚥下や運動機能などが高まるとされ、タンバリンや鈴、鳴子、太鼓など簡単に音が鳴らせる打楽器などを使って体を動かすと、より効果が上がると言われています。音楽療法は、歌うことが好きだった人や楽器を習慣的に演奏していた人に対して行うことでより高い効果を期待することができます。
また、合唱などをすることで、人とのコミュニケーションが増え、徘徊やうつ症状などの悪化を防ぐとも言われています。
まとめ
私たちの身近にある音楽は、時に楽しい気持ちにさせてくれたり、やる気を出させてくれたり、また、失恋など落ち込んだ時に励ましてくれたりと、私たちの心に大きな影響を与えます。
それとともに、脳や体にも、同様に大きく影響してくるのです。
また、音楽療法はお薬とは違い副作用がありません。
どんな人にも、その状況に合わせてセッションを行っていくことで、素晴らしい効果が期待できるのです。
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